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当時、生理活性ペプチドの合成研究、特に誘導体の合成では、一般に構成アミノ酸残基を別のL-アミノ酸に置換することが行われていた。
そこで、LH-RH関連ペプチドの合成でも、先ず各L-アミノ酸残基を他のL-アミノ酸残基に置換するようなペプチド類の合成を行ってみたが、得られた結果は正に無残であり、殆どの合成ペプチドはラットでの排卵促進活性や、下垂体切片を使うin
vitroでのLH分泌活性でみる限り、天然LH-RHの数%の活性しか示さない。
わずかに2位のヒスチジン(His)をフェニルアラニン(Phe)に置換したアナログ、5位のチロジン(Tyr)をPheに置換したアナログ、7位ロイシン(Leu)をイソロイシン(Ile)やメチオニン(Met)に置換した類似体が10%程度の生理活性を示すに過ぎなかった。
そこで、分子中の末端にあるグリシンアミド(Gly-NH2)に注目して、この部分をGly-NH2に大きさの類似したアルキルアミンに置換してみたが、色々のアルキルアミンのうちエチルアミン、エタノールアミンそれにプロピルアミンが強い活性を示し、特にエチルアミン置換体(TAP-031)は天然のLH-RHの約5倍以上の排卵促進活性を示すことが確認された。このアナログが天然のLH-RHより活性の優れた化合物の最初の例となった。
このペプチドは現在コンセラールという名称で当社から牛等の繁殖障害治療薬として市販されている。我々はこのアナログが強い活性を示すのは、血液中での分解に関与するデアミナーゼに対して抵抗性を増すためと理解している。
さて、このアナログを基本にして、他のアミノ酸残基を置換してみると、構造と活性にはLH-RHアナログの場合、相加的関係があることが分かった。この点はオキシトシン等と違うところで、オキシトシンでは1置換体と2置換体ではあまり活性の相乗性は認められていない。この結果はさらに置換実験を進めれば、より活性の強い誘導体が得られる可能性を示すものである。
そこでさらに分子内部の置換を考えたが、上記のように単純なL-アミノ酸での置換では効果は望めないことから、D-アミノ酸での置換を試みることにした。その場合どの場所(何番目のアミノ酸)をD-アミノ酸に変えるかが問題であるが、LH-RHの予想される酵素による分解箇所は3位トリプトファン(Trp)及び5位チロジン(Tyr)のカルボキシル側である。そこで、これらの箇所、即ち、4位セリン(Ser)、及び6位グリシン(Gly)の置換を行うこととしたが、4位SerをD-Serに置換したものは、生理活性の低下を招くことが分かった。
ところが何の側鎖もない6位のGlyの位置にD-アミノ酸を導入すると著明な活性の向上がみられた。この活性の向上はD-型のアミノ酸であればどのようなアミノ酸で置換してもよいことも分かった。その結果を表1に示した。
表1の生理活性のデータから分かるように、in vivoでの活性がin vitroの活性から予想される以上に強力である。特に、10番目のグリシンを除去し、6番目のグリシンをD-ロイシンに変換したdes-Gly10,
D-Leu6-LH-RH-ethylamide(TAP-144、 leuprorelin)は天然LH-RHの80倍にも及ぶ排卵促進作用を示す。
しかし、下垂体切片を使うin vitroのアッセイ系では天然のLH-RHのせいぜい2倍程度の活性を示すのみである。これは合成計画の当初に予想したように、生体内でのペプチド分解酵素に対する抵抗性が大きいことがこのLH-RH誘導体が強い活性を持つ理由と考えられる。しかし、in
vitroでも2倍以上の活性を示す事から、分子の立体構造の安定化も関与していることも事実と考えられる。
1970年代の後半になって、このようなLH-RHのsuper-agonistを動物に連続投与すると、あたかもantagonistを投与したかのごとく、血中の性ホルモンが著減することが分かったが、この事実が性ホルモン依存性の乳癌や前立腺癌に効果が期待できる由縁である。そして、これらの疾患のうち、まず初めに前立腺癌での治療試験に入ったわけである。
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